岡本稔◎音楽評論家
大野和士(指揮)東京都交響楽団
(Altus) ALT523 ※輸入盤 オープン価格
驚くべき緻密さで内面的な幻想を表現した、ユニークな秀演
2019年のライヴ。都響が大野の楽器となりきったことを明確に示す演奏と言えるだろう。表現の緻密さは驚くべき水準にあり、なかでも弦のセクションの織り成す多彩な表現はこの曲の演奏でめったに聴けるものではない。
フランス的な感性からはやや遠い印象もあるが、磨き抜かれた音楽は独自の世界を形成する。第4楽章でもオーケストラを煽り立てるところはなく、内面的な幻想を表現していく。ユニークな秀演として評価したい。
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
ラハフ・シャニ(指揮)イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団
(NAXOS) NYCX-10385 3300円
アルゲリッチが得意のレパートリーで話題のシャニと共演
2019年、イスラエルでのライヴ。ともにアルゲリッチが好んで取り上げるレパートリーで、すでに5種ほどの録音がある。ベートーヴェンではオーケストラとの対話が親密で味わい深い音世界を形成する。ラヴェルについては1967年のアバドとの共演盤があまりに名高いが、半世紀以上を経たこの録音でも瑞々しさを全く失うことなく、より豊かな表現を聴かせている。今、注目の指揮者のひとり、シャニのタクトにも賞賛を送りたい。
伊熊よし子◎音楽評論家
●ビゼー(ワックスマン編):《カルメン幻想曲》/ヴェルディ(ファウリーシ編):歌劇《椿姫》よりヴィオレッタのアリア「そは彼の人か~花から花へ」、ほか全6曲
ルカ・ファウリーシ(ヴァイオリン)
イタマール・ゴラン(ピアノ)
(ソニー)19658765272 オープン価格 ※輸入盤
オペラの編曲版を選曲、徹底して楽器をうたわせたアルバム
ピンカス・ズッカーマンやエマニュエル・パユが絶賛しているヴァイオリン界の俊英、ルカ・ファウリーシがデビューCDを世に送り出した。子どものころからパリ・バスティーユのオペラハウスのそばで育ち、オペラを愛してきたルカはオペラの編曲版を選曲し、徹底して「楽器をうたわせる」ことに終始。まさに弦で奏でるオペラである。共演のイタマール・ゴランがすばらしいサポートを行い、ともにうたい、語り、感情の起伏を見事に表現。
石戸谷結子◎音楽評論家
●ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》抜粋/同《ヴェーゼンドンク歌曲集》/R・シュトラウス:《4つの最後の歌》、ほか全6曲
ジェシー・ノーマン(ソプラノ)、
クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、ほか
(ユニバーサル)UCCD45020/22 4950円 ※3CD、DECCA原盤、歌詞対訳付き
お蔵入りになっていた名ソプラノの圧倒的歌唱を再認識
1988~98年に録音され、本人の許可が下りないなどの理由でお蔵入りになっていた貴重な記録がついに陽の目をみた。いずれも素晴らしい。1枚目は《トリスタンとイゾルデ》からの抜粋で、特に「イゾルデと愛の死」は圧巻。最も感動的なのは2枚目。R・シュトラウス《4つの最後の歌》は、深い解釈と抑制された表現に圧倒され涙なしに聴けない。ワーグナー《ヴェーゼンドンク歌曲集》にも感動。3枚目のベルリオーズ《クレオパトラの死》はドラマが目に浮かぶ。ノーマンの凄さを再認識。
佐藤康太◎音楽学
●パレストリーナ:第1旋法によるリチェルカーレ●フックス:アルペッジョ
●ドビュッシー/ロンドー編:《子供の領分》より「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」●クレメンティ/ロンドー編:《パルナッソス山への階梯》 Op.44より第14番、ほか
ジャン・ロンドー(チェンバロ)
(Erato)5419741617 ※輸入盤 オープン価格
パレストリーナからドビュッシーまでの「階梯」をチェンバロで
フックスやクレメンティが自身の教本のタイトルに用いた「パルナッソス山への階梯」に霊感を得て、パレストリーナからドビュッシーまでをすべてチェンバロで弾くという奇抜なプログラム。ロンドー自身による解説的な「架空対話」を読んでも、ドビュッシーをチェンバロで弾く理由は筆者には正直よく分からないが、演奏自体は彼らしい即興性と自由さに満ちつつ、楽曲の構成をしっかりと押さえた説得力のあるものとなっている。