岡本稔◎音楽評論家
●メンデルスゾーン:「夏の夜の夢」抜粋●ベルリオーズ:幻想交響曲
デボラ・ヨーク(ソプラノ)
ステラ・ドゥフェクシス(メゾ・ソプラノ)
クラウディオ・アバド(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(キングインターナショナル)KKC-9149(2CD+ブルーレイ) 8100円
淡いロマン性を漂わせ生気に満ちた「夏の夜の夢」
2013年5月にアバドが古巣のベルリン・フィルを指揮した演奏会をライヴ収録したもの。これがベルリン・フィルとのラスト・コンサートとなった。メンデルスゾーンの「夏の夜の夢」はオーケストラの高い能力を生かしながら、淡いロマン性を漂わせた生気に満ちた演奏を聴かせている。ベルリオーズの「幻想交響曲」における青白い
灼
熱もアバドならではの表現といえるだろう。ブルーレイディスク・オーディオ/ビデオ、ハイレゾ音源(24bit/48kHz)のダウンロード用のパスワードつき。
石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト
●カールマン:歌劇「伯爵令嬢マリツァ」より「ウィーンへ愛をこめて」、ほか全15曲
クラウス・フロリアン・フォークト(テノール)
ゲリット・プリースニッツ(指揮)
ミュンヘン放送管弦楽団
(ソニー)SICC-1959 2592円
明るく軽やかな声が甘い恋の歌に合う人気テノールの来日記念盤
6月に「ローエングリン」の主役で来日するフローリアン・フォークトの来日記念盤。ピュアで澄んだユニークな声を生かし、主にワーグナーのヘルデン・テノールとして大活躍だが、歌手になった当初(ホルン奏者から転向)はオペレッタを勉強したという。前半はウィーンを主題にしたオペレッタのアリアを中心に、後半はミュージカルのナンバーも歌う。明るく軽やかな声は甘い恋の歌にぴったり。レハール「微笑みの国」からの3曲は白眉、彼の主演で舞台を観たい。
クリストフ・ゲンツ(福音史家)、ほか
シギスヴァルト・クイケン(指揮)
ラ・プティット・バンド
(キングインターナショナル)KKC-5602 4999円
(SACDハイブリッド、3CD)日本語解説つき
「1パートに歌手1人」の編成で受難と哀しみがしみじみと響く
世の中に「マタイ受難曲」の録音は数多くあれど、これはユニークなディスク。今年3月に東京オペラシティで上演されたのと同じ、ソリスト8人と+3人による、シンプルな構成(リフキン版)によるバージョン。1パートに歌手1人で、合唱部分もソリストたちによるアンサンブルだ。これにより、すっきりと各声部が際立ち、圧倒感はないが、しみじみとキリストの受難と哀しみが心に響いてくる。クイケンの指揮は生き生きとしており、古楽器の響きが柔らかく優しい。
長木誠司◎音楽評論家
●信時潔:我国と音楽との関係を思ひて/絃楽四部合奏─弦楽オーケストラ版─
菅英三子/平松英子(ソプラノ)、寺谷千枝子/永井和子(アルト)、永田峰雄(テノール)、甲斐栄次郎/福島明也(バリトン)、湯浅卓雄(指揮)、東京芸術大学シンフォニーオーケストラ、他
(ナクソス)NYCC-27300 3240円(SACDハイプリッド)
芸大のメンバーが総力を挙げて取り組んだ快演
信時没後50年、戦後70年の機会に、東京芸大で交聲曲《海道東征》が再演された際に録音されたもの。大君を讃える作品として、封印はされないものの、長らく正面から扱われるのが 躊躇 われた作品に、指揮、オーケストラ、独唱、合唱、すべて芸大のメンバーが総力を挙げて取り組んだ快演で、作品を歴史の垢を落として 蘇 らす大きな一歩となろう。
鈴木淳史◎音楽評論家
●ヘンデル:「水上の音楽」第1組曲/第2組曲/第3組曲
ベルリン古楽アカデミー
(Harmonia Mundi France)HMC-902216 オープン価格
軽快なテンポとリズムなど「水上の音楽」の決定盤
すこぶる涼しく仕上がった「水上の音楽」だ。蒸し暑くも寒々しくもない、絶妙といっていいほどの爽やかさ。ベルリン古楽アカデミーならではの軽快なテンポとリズム、細やかに変化するアーテキュレーション、官能的にまで精緻なアンサンブル。それでいて、金管の野趣も損なわず、そのコントラストも心地いい。ささやくような弱音で開始し、霧が晴れるように音の
輪郭
が少しずつ明らかになっていく第1組曲のエアーはとくに印象的だ。