岡本稔◎音楽評論家
ジョルディ・サヴァール(指揮)
ル・コンセール・デ・ナシオン
(キングインターナショナル)KKC-6026 3600円(2SACDハイブリッド)
録音:2017、18年
3曲の関連性を実際の演奏を通して鮮やかに示す
アルバムの原題は「交響楽の遺言書」。ピリオド楽器への取り組みにおける先駆者の1人、サヴァールがモーツァルトの孤高の3曲で円熟の境地を示している。ごく短期間で成立した3曲の関連性についてはしばしば指摘されているが、彼は実際の演奏を通してそれを鮮やかに示す。モダン楽器に負けない機能性を駆使するとともに、ピリオド楽器特有の響きのニュアンスをフルに活かしている。速めのテンポながら表情は豊かで、円熟の深さをにじませる。
ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)
バンベルク交響楽団
(キングインターナショナル)KKC-6031(2CD) オープン価格
録音:2018年(ライヴ)
一切の誇張を排したアプローチを貫きながらも雄弁に
現役最高齢の1人、ブロムシュテットが2018年に行った演奏会のライヴ。加齢とともに枯淡の味わいに傾く人が多いなか、この指揮者は持ち前のみずみずしさを保ちながら、そこにさらなる円熟の年輪を加えている。端整で一切の誇張を排したアプローチを貫きながらも、音楽はより雄弁になった印象がある。ユダヤ性や耽美といったキーワードとはまったく無縁だが、自らの方法でマーラーの世界を描き切る。オーケストラの出来も特筆すべきだ。
安田和信◎音楽評論家
●ヴェラチーニ:ヴァイオリン・ソナタ「シャコンヌ」
●ジェミニアーニ:ヴァイオリン・ソナタOp.4-8
●コレッリ:ヴァイオリン・ソナタOp.5-9
●タルティーニ:ヴァイオリン・ソナタ《捨てられたディドーネ》、他
ファビオ・ビオンディ(ヴァイオリン)、アントニオ・ファンティヌオーリ(チェロ)、パオラ・ポンセ(チェンバロ)、他
(グロッサ)GCD-923412 オープン価格
〈録音:2019年〉
変わらぬ音楽を自分の色に染め上げる能力
1690年製ストラディヴァリウスを使用。コレッリ、ヴィヴァルディ、ジェミニアーニ、ヴェラチーニ、タルティーニ、ロカテッリというイタリア系のスーパースターの作品を収録。ビオンディにとっては再録音も含まれているが、いずれも音楽を自己の中に取り込んで自分の色に染め上げる能力は若き日と変わっていない。技巧的な衰えがないと言ったら嘘になるが、それが演奏にキズをもたらすことはない。通奏低音陣の充実も特筆すべき。
●カッチーニ:「この上なく甘い溜息」/「愛の神よ、私は去る、そして感じる」/「不実な顔よ」/「私の太陽を見るだろうか?」/「私の美しいアマリッリよ」●ディンディア:「無慈悲なアマリッリ」、他
櫻田亮(テノール)
西山まりえ(ハープ)
(コジマ録音)ALCD-1188 3024円
〈録音:2018年〉
続編を期待したいテノールとハープのデュオ
古楽の世界でも知られる櫻田が初期バロックのカッチーニ、ディンディア、モンテヴェルディによる、恋を主題とした歌曲を19曲歌っている。クセのない自然な発声をベースに、詩と音楽が生み出す情感に誇張なく寄り添うような歌唱は見事だ。バロック・ハープのみを通奏低音としているが、西山のセンスあふれるリアライゼーションと歌手への寄り添いの巧みさのおかげで一本調子になることもない。この抜群のデュオ。続編を期待したい。
鈴木淳史◎音楽評論家
トーマス・ツェートマイアー(指揮)
ヴィンタートゥール・ムジークコレギウム
(Claves)501916(2CD) オープン価格
まるで1台のヴァイオリンで演奏しているかのよう
小編成のオーケストラによる。第1番は、そのしなやかなフレージングに驚かされる。終楽章の主題も足音を忍ばせ、しめやかに登場。かと思えば、テンポを急加速させたり、スタッカートを弾ませたりとメリハリも充分だ。続く第2番や第3番になると、さらに大胆なアゴーギクとスパスパと明快なアーテキュレーションがまばゆいばかり。歌う、音を切る、といった軽快、柔軟すぎる動きは、まるで1台のヴァイオリンで演奏しているかのよう。