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新譜CD&DVD

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

ショスタコーヴィチ:交響曲第1番、第14番、第15番、室内交響曲

ショスタコーヴィチ:交響曲第1番、第14番、第15番、
室内交響曲

アンドリス・ネルソンス(指揮)ボストン響
(ユニバーサル)UCCG―45017/8 3960円

求心力が高く、しかも細やかなニュアンスに富んだ音楽

 シリーズ第5弾、これで11曲がそろった。旧ソ連領のラトヴィア生まれ、サンクトペテルブルクで学んだネルソンスにとって、ソヴィエトの演奏の伝統は全く無縁ではない。けれども、政治とのかかわりで語られることが多かったこの作曲家の作品に対し、純音楽的なアプローチで臨み、極めて多くの成果を挙げている。2014年から監督をつとめるオーケストラの能力を活かしきり、求心力が高く、しかも細やかなニュアンスに富んだ音楽を聴かせている。

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番&第2番

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番&第2番

アンドラーシュ・シフ(ピアノ・指揮)
エイジ・オブ・エンライトゥンメント管
(ユニバーサル/ECM) UCCE-2095/6 5280円

シフのソロに触発され、楽員たちが豊かな自発性を発揮

 バレンボイムはかつて「ピアノの弾き振りができるのはベートーヴェンまで」と述べていたが、このシフの試みはその説を覆すもの。オーケストラの提示部から音楽はこの上なく雄弁で、細やかな味わいにも富む。ソロとの掛け合いになっても音楽の密度は 微塵 みじん も落ちることなく、自在な対話が交わされていく。シフのソロに触発され、楽員たちが豊かな自発性を発揮、室内楽的な妙味に富んだ音楽を展開していく。新鮮な驚きに満ちた全集だ。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

バッハ━ベートーヴェン

バッハ━ベートーヴェン

●J.S.バッハ:フランス風序曲 /フルート・ソナタ第2番~シチリアーノ(ケンプ編)/ ピアノ協奏曲第7番~ラルゴ(ケンプ編)●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第13番「幻想曲風ソナタ」/ピアノ・ソナタ第23番「熱情」
アンドリュー・フォン・オーエン(ピアノ)
(ワーナー)9029502051 オープン価格

バッハの明確な秩序に裏打ちされた作風に深く心を打たれる

 アメリカ生まれのフォン・オーエンは、パンデミックの期間中にJ.S.バッハと対峙し、混沌とした世界のなかで、明確な秩序に裏打ちされた作風に深く心を打たれた。バッハの対位法などもじっくり研究し、純粋な宇宙を表現するべく録音にこぎつけた。さらにベートーヴェンへと歩みを進め、ここではとりわけ「熱情」が心の奥に染み込んでくる。加えてケンプ編の美しく情感豊かな音楽をアンコールのように奏で、聴き手の心をゆったりと癒す。

ベートーヴェン:チェロ・ソナタ全曲~ホープ・アミッド・ティアーズ~

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番、第31番、第32番

小山実稚恵(ピアノ)
(ソニー)SICC-19054 3300円(SACDハイブリッド)

細心の心配りと円熟した技巧で弾き進める後期3大ソナタ

 小山実稚恵のベートーヴェン・ピアノ・ソナタ録音の第2弾はピアニストが憧れ、演奏することを目標とし、録音を夢見る後期の3大ソナタの登場。第30番の作曲家が自身の心をいたわるかのような情趣に満ちた楽想、第31番の精神的な苦悩や悲観的な思いを込めた響き、第32番のフーガと変奏曲の採用など、ベートーヴェンの集大成的な特質を小山実稚恵は細心の心配りと円熟した技巧で弾き進め、作品への深い敬意と愛情を示している。

輸入盤

鈴木淳史◎音楽評論家

いつ踊ればいい?

いつ踊ればいい?

●ガーシュウィン:いつ踊ればいい?●アート・テイタム:2人でお茶を●ボルコム:ゴースト・ラグ●ピアソラ:リベルタンゴ●ヒナステラ:アルゼンチン舞曲●ファリャ:火祭りの踊り●ラヴェル:優雅で感傷的なワルツ●バルトーク:ルーマニア民俗舞曲、他
リーズ・ドゥ・ラ・サール(ピアノ)
(Naive)V―5468 オープン価格

サロンの雰囲気の中で浮き上がる細やかな造形美

 ダンスがテーマ。アルバム頭に並べられたジャズやラグ作品の音色もゴージャスで、雰囲気もたっぷりなこと。それらに続くヒナステラ作品では、律儀なまでにリズムを整理し尽くして、青白い熱狂を築く。隠された声部を浮き出すファリャ。ラヴェル作品でも、弱音を生かして陰影を施す。そして、斜に構えたバルトークのクールさ。スクリャービンやラフマニノフでも、サロン的優美さを損なわずに、細やかな造形美を浮き上がらせてくれる。