岡本稔◎音楽評論家
ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(キング・インターナショナル)KKC-5802/6(5CD) 5940円
90歳の巨匠が示す21世紀にふさわしい解釈
90歳の誕生日を記念した、近年の演奏を集めたセット。ブロムシュテットはゲヴァントハウス管のカペルマイスター在任中にはベートーヴェン全集を残しておらず、満を持してのリリースだ。メトロノームの指示に従った速めのテンポで古典的な美感を尊重し、引き締まった音楽を実現している。細やかなニュアンスにも富み、オーケストラの持ち味がいかんなく発揮されている。現代的な感覚も貫かれており、21世紀にふさわしい解釈といえるだろう。
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
●リスト:愛の夢第3番●バッハ:「G線上のアリア」(ピアノ編曲版)●ショパン:夜想曲第20番(遺作)●チャイコフスキー:「くるみ割り人形」より「金平糖の精の踊り」●ショパン:練習曲Op.25-1●ハンス・ジマー:映画「グラディエーター」より「グラディエーター・ラプソディー」●バッハ:「主よ、人の望みの喜びよ」、他 ラン・ラン(ピアノ) (ソニー)SICC-30466 3000円
美しいロマンあふれるピアノ曲の多彩さを伝える
ラン・ランは超絶技巧をものともせず、どんな難曲も自然に楽々と弾いてしまうが、ここに収録されているのは主題の美しいロマンあふれる作品群。これらを彼は楽しそうに、各曲から物語を引き出すように演奏し、ピアノ曲の多彩さを伝える。ラン・ランはリサイタルでもアンコールを何曲も演奏するが、このアルバムはそんな幸せなひとときを再現するよう。ボーナストラックにはNHK大河ドラマ「おんな城主直虎」のテーマ曲が収録されている。
石戸谷結子◎音楽評論家
●グノー:歌劇「ロメオとジュリエット」より「恋よ、恋! ああ君、太陽よ昇れ」●ビゼー:歌劇「カルメン」より花の歌、他全14曲 ヨナス・カウフマン(テノール) ベルトラン・ド・ビリー(指揮) バイエルン州立管 (ソニー)SICC-30461 2700円
トップ・テノールが録音した得意のフランス・オペラ・アリア集
明年1月に来日が予定されるカウフマンの最新録音。得意のフランス語によるフランス・オペラのアリア集。「ロメオとジュリエット」、「ウェルテル」、「真珠とり」など、軽やかな明るい声に向くアリアが多いが、カウフマンの声は低音部が充実して立派になり、バリトンのような声質になった。一方で「アフリカの女」、「ル・シッド」、「ユダヤの女」などドラマチックな声を必要とするアリアもあり、聴き応えは充分。ヨンチェヴァ、テジエと、共演者も魅力だ。
長木誠司◎音楽評論家
●池野成:ティンパナータ(1977)/エヴォケイション(1974)●黛敏郎:シロフォンコンチェルティーノ(1965)●伊福部昭:ラウダ・コンチェルタータ(1979) 菅原淳(ソロティンパニ) 岩見玲奈(マリンバ) 大嶋浩美(ピアノ)
(スリーシェルズ)3SCD0035 3000円
門下2人の作品で伊福部スタイルの継承を示す
伊福部及び門下の池野、黛の打楽器作品を4曲集めたもので、実演に先駆けてスタジオ録音されている。伊福部スタイルがどのように継承されたのかということの一面を示す。録音の少ない池野成の2曲のシリアス作品《ティンパナータ》《エヴォケイション》が聴かれるのが嬉しい。打楽器の呪術的な性格を露わにした両曲とも、伊福部ファンには垂涎ものだろう。黛と伊福部作品はそろそろオリジナル編成で聴きたいが、演奏は上物。
鈴木淳史◎音楽評論家
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団 (Harmonia Mundi France)
HMM-905285 オープン価格
現在最高のマーラー指揮者として本領発揮
ロトが現在最高のマーラー指揮者であると証明した1枚。すべての動機を明瞭に示し、こと細かに整然と奏でられる細部が、雑然なまでに猛烈に肥大化する全体に収束する道筋を愉悦を伴って描く。たとえば、アダージェットの中間部が最終楽章で蘇る部分では、最初は大胆なポルタメントで、2度目は管楽器の背後で分解されるように、最後はテンポ変化を伴う悠然たる身ぶりで奏される。そして、これら変幻自在さが生み出す圧倒的なコーダ。